塾でのこと。

ちっとも集中しない彼に堪り兼ねて
「注射刺すよ」
と言うと、


「それ面白くないっすよ。
もう終わりました、その話」


だよね。
ダルそうに、
僕を見ようともせずに言った彼の言葉に、
僕はなんだかすごく申し訳ない気になる。
ごめん。
僕だって、好きでこんなことしてる訳じゃないんだ。
君が好きでこんなとこ来てる訳じゃないのと同じようにね。
社会やシステムや、自然や、神。
あるのかどうかも疑わしいような、
結局それらの僕ら奴隷。
そんな生き方は死んでもやだけど、
だったら他に何ができる?
あるべき可能性なんて、どこにもないだろ。
ただ粛々と、寿命が終わるのを待つしかないのさ。
ああ本当に、注射を打ってしまいたい。
やばい注射は打ったことないけど(たぶん)、
点滴くらいなら一週間に一度くらいの間隔で打っても構わない。
この前彼と一緒に教えてる隣の女の子が
インフルエンザの予防接種を受けて
「注射嫌い」と言っていたのを
「俺は好きだけど」と口走って以来、
僕は生徒たちから注射オタク呼ばわりされている。
それは構わないけれど、
それで「ウケた」とか
「心掴んでやったぜ」とか勘違いしちゃって、
まるで錦の御旗みたくそれを持ち出して過度に接近してくる大人って、
超うざいよね。
分かる。
でもさ、どうしようもないんだ。
もうね、どうすればいいか分からないんだよ。
大人になってみれば、君にも分かるさ。
大人になったって、何がどうなる訳でもない。
子供の頃は確かに自由は制限されていたけれど、
大人が自由な訳でもない。
ただ孤独に慣れて行くだけさ。
孤独だなんて、
今更恥ずかしくて感じれもしないって、
いつでも必死に、ごまかしているだけさ。
何の話をしていたっけ。
ああそうそう。
とにかくもう、
どうしようもないって話だよ。